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ベンチャー・プライベート・カンファレンス

【第18回】
「未来を創るベンチャーECOシステムの模索~キャズムを越える~」

10月1日 9:45~10:45
《講演》 『来たれNYSEへ! 日本のベンチャー上場への期待』

NYSE Euronext アジア・太平洋地域担当 執行役員 春日 尚義氏

日本市場で日本企業の株式へ投資している米国機関投資家は氷山の一角に過ぎない。欧米でも中国企業への投資意欲が高く、米国での中国企業の上場が増えている。米国における日本の上場企業数は10年前に2番目だったが、今は中国企業が56社で2番目であり、2008年は年間に20社、今年はすでに12社が上場した。 ソニーがNYSEに上場してから40年経ったが、日本企業の上場は未だ17社にとどまっている。東京の国際競争力を取引高でみると、直近の指標では7番目に戻ってきたが、深圳と上海がランクインしてきたのが注目される。このように、証券取引所の市場規模では、中国が主要な市場の仲間入りしてきたことが明らかだ。
万が一、投資家が東京を越えていってしまった場合、ベンチャー企業はどう対処すべきか。日本の新興市場では個人が6割の取引を占めており、個人を抜きに語れない。米国市場においてはかつては個人投資家のウェイトが高かったが、機関化が進んで機関投資家のウェイトは4割強になっている。日本の機関化は投資信託よりも信託銀行などが中心であるが、東京から外国人投資家がいなくなっていった場合に備えて、米国上場により投資家層の拡大に備えることができるのではないか。
世界の2大資本市場である米国と欧州の市場へのアクセスを通じて、投資家層の拡大と資金調達源の分散が図れ、また日本に拠点のない機関投資家、プライベート市場に比べて幅広い投資家にアクセスできるようになる。また、米国に重複上場している日本企業の潜在価値が25%のプレミアムが付くという研究もある。
米国機関投資家は日本企業の価値は過小評価されていると考えているという調査レポートもあり、NYSE上場に要するコストは高いというイメージがあるが、最近はそうでもない。日本の市場に上場する場合はJSOX対応の内部統制報告書が必要だが、SECに証券登録を行っている企業については米国で使用する報告書をそのまま使え、5年前に比べてはるかに米国市場は上場しやすくなっている。
NYSE取引の95%は電子化している。昨年は新興市場向けAMEXを買収し、欧州にもAlternextがあるなど、現在は新興企業向け市場を持っている。また、NYSEは指定マーケットメーカー制度を採用しているのが差別化要因の一つで、市場が混乱したときなどに効果がある。
Alternextは4つの国から成っている、これが一つにリンクされているため、一つの市場で取引すれば4市場で取引できることになる。いずれは米国とも技術的にはリンクさせるつもりである。 (了)

9:40~11:30
《パネルディスカッション》 『食文化とネットの意外な関係』

クックパッド株式会社 代表取締役 佐野 陽光氏
株式会社クオカダイニング 代表取締役 斎藤 賢治氏
ワイン蔵TOKYO 支配人 中川 正光氏
〔モデレーター〕慶應義塾大学インキュベーションセンター 国領 二郎所長

●クックパッド佐野氏(プレゼンテーション)
 会社設立以来12年が経過したが、現在は日本最大のお料理紹介サイトとなり、今年7月に東証マザーズに上場した。設立以来、「毎日の料理を楽しみにすることで心からの笑顔を増やす」という理念を掲げて経営してきた。すなわち、料理が個人や家庭の生活のなかで楽しみになれば間違いなくハッピーになる、そしてクックパッドはそのために「料理を楽しくする」を徹底的にやる会社となることを目標にしている。当社は主に口コミによって会員や閲覧者が増えていき、現在は681万人の月間利用者数がある。
 当社はユーザーの料理を楽しみにすることを考えてサービスを開発してきたが、インターネットのテクノロジーに裏打ちされたプロフェッショナルが提供する信頼できるサービスが必須と考えて開発にいそしんでいる。私は1997年に慶応SFCを卒業したが、コアメンバーはSFCでネットのテクノロジーをみっちり教え込まれた。そのこともあって、当社にはテクノロジーを使ってどうやったら料理が楽しみになるのかを自然に指向するような雰囲気がある。
 当社の事業モデルは、広告事業(バナー)、マーケティング支援事業(食品メーカー、新規商品開発、マーケティング)、会員事業(個人顧客、有料サービス提供)の3つである。55万件という日本最大の料理レシピを掲載しており、国内の30代女性は4人に1人は当社サイトの閲覧経験がある。ユーザーの97%が女性であり、ユーザーのうち4人に1人は月一回以上サイトを使っている。このように、実態的にはクックパッドという料理サイトが生活のツールとして日常生活のなかに、生活動線のなかに織り込まれている。 現在、クックパッドの料理レシピは、家庭の中から1日600~800品のペースで増加しており、当社ではなくサイト利用者によってコンテンツ(料理レシピだけでなく感想等の個性のあるコンテンツ)が創造されサイトの価値を蓄積している。
 面白い特徴としては、大半のネットサイトのアクセス集中時間が午後9時から深夜という中で、クックパッドへのアクセス時間は午後3時から4時の間に集中していることだ。なぜならば、ユーザーが献立を決めるために夕方の買い物前の午後4時までにクックパッドを利用するためだ。
 日々の料理という生活に欠かせない行動は、購買の影響力がきわめて強い。楽しく食べるために、あまり時間や労力をかけることなく、日々の献立を考えるのが主婦をはじめとした「家庭の料理人」である。この特性はマーケティングツールとしては重要だ。クックパッドのような料理サイトを拡大発展させることによって、生活者による生活者のための生活必需サービスが可能となる。日常生活密着型の「消費者発の販促メディア」として、マーケティングにおける強みが発揮できると考えるからだ。
 当社の具体的なマーケティング支援事業を紹介する。食品業界は変革の時代を進んでいる。少子高齢化、核家族化による料理が伝承しない社会、食品産業自体の成熟、景気の後退、メディアの多様化が背景にある。この中で、食品業界の年間広告費3000億円の支出配分に本格的な変化が生じている。というのも、食品のメイン顧客が高齢化しており、若い人への購買層をシフトすることがうまくいっていないという食品業界の現状認識があり、業界として若年層の取り込みが急務である。一方で、従来の広告効果は次第に低下しており、ユーザーにいかに価格以外で動機付けしていくかという広告手法の見直しが始まっている。
 この変化にクックパッドの商機があると考えている。当社が運営するサイトにおける680万人の家庭の信頼を活用し、食品業界に対してどうやったらもっと効果的なコミュニケーションを築けるか、あるいはライフスタイルが変わっている若い世代との新しい関係構築性を築けるかについて、我々が橋渡しをしていける余地が大きいからだ。
 例えば、エバラ食品の「焼肉のタレ」は長年大きな市場を獲得しているが、新しいレシピによる再購買を生むためにクックパッドのユーザー680人にヒアリングしている。焼肉以外に何か使い道ないか、おいしいビビンバ、おにぎりの味付けとか色々な回答や提案が出てくる。これにより、焼肉以外の新しい食べ方が出てきて、「焼肉のタレ」の需要を底上げする効果がある。言葉を換えて言えば、マス広告の限界に対応したネットサイトを介在させたマーケティング支援の強みをクックパッドは活かすということだ。
 クックパッドの世界観は、生活者、流通・メーカー、クックパッドの3者がwin-winの関係になること。国内の食費(内食)は年間40兆円もある。1世帯当りで6.8万円である。しかし生活者もメーカーも何も手を打たずに漫然としたままでは、家庭における食の満足感が失われてしまう。金銭的な増加ではなく、生活のなかで料理を楽しみにする、積極的に情報を得る、あるいは外に発信し交流していくという点で生活者が満足感を得られるというプロセスの中でクックパッドが経営的にも成長し、かつ社会に役立てる機会があると考える。

●クオカプラニング斎藤氏(プレゼンテーション)
 当社の社名であるcuocaとは、女性の料理人、料理の上手なお母さんという意味で、家庭でお菓子作りに使う材料や機材3500アイテムを実ショップとEC双方で販売しており、かつネット会員への情報サービスを行っている。当社の成長エンジンは、リアルショップ(4店舗)、ネット通販、外販 (企業・流通業者向けB2B)の3つである。
 私は徳島の食品会社の家に生まれた。実家は明治5年に小麦粉の卸業を始めた会社で私で5代目である。1985年に慶応大学を卒業し、アサヒビールに入社した。生まれのせいか、食べることに興味あり、食にかかわる仕事がしたいと考えた。34歳になった1994年に徳島に帰り実家の会社に入社し現在に至っている。
 私の妻もお菓子作りが好きだが、実家の会社の倉庫にいって驚いた。小麦粉の種類は30から50種類ある。しかし、小売スーパーにいくと3種類くらいしかない。チョコレートやバターもそうであって、その時にプロはなぜこんなたくさんの材料を使い分けるのかという感慨というか疑問を持った。整理するならば、「よい材料でつくればおいしく出来るのではないか?」、あるいは「よい材料でなければ、おいしく出来ないのではないか?」という考えだった。お菓子作りの主婦は、なぜ楽しく買えないのか?。東京だと浅草の合羽橋のような道具街があって都内の主婦も小1時間電車に乗ればいろいろな材料や道具が手に入るが、地方ではほとんど不可能だ。ゴルフが好きな人でもグリーンでプレーするのはせいぜい月1回、しかしゴルフ用品のショッピングは楽しい。お菓子作りも似た構造にあり、道具や材料をいろいろ揃えるところにも楽しさがある。ここにチャンスがあるのではと思って、クオカのスタートを決めた。
 1997年に実家の会社の高松営業所の店先を借りてクオカの前身となる小さな店をオープンした。棚一つを置き、商品アイテム数は10点余りだった。妻と二人でほぼ徹夜で小分けし、商品を一つ一つ店の棚に陳列した。オープン当初からアマゾンのようにネットで材料や道具を販売も出来るのではという発想もあったが、徳島にはネットのアクセスポイントすらなく、私個人は大阪のベッコウアメのポイントに徳島からアクセスしており月4万円の電話代がかかっていたから、ネットでEC販売が成り立つという計算は出来なかった。2001年に製菓材料専門店として「クオカショップ高松」をオープンし、2003年11月には「クオカショップ自由が丘」、2005年3月には新宿三越地下に「クオカショップ新宿」をオープンした。ネット通販は1999年から「cuoca.com」を開設し、2006年12月にはECエンジンを一新し、2007年11月には姉妹サイト「bakingdays」をオープンした。現在、ショップは新宿・自由が丘・高松・福岡の4店舗、ECは月間のページビュー数1300万、月間受注件数25000件、年間売上25億円となるまでになった。 3500アイテムという規模の商材を全国にECとリアルショップで展開しているので、当然にして物流システムの効率化と安定化が経営のカギとなっており、クオカ徳島物流センターでは3温度帯別の倉庫を持ち、年間32万件の発送を行っている。
 クックパッド社と似ているが、家庭内の手作りの食に携わるビジネスであり、家庭の主婦層や独身女性の個性ある情報に接し、かつお互いに交流して情報を出し合って楽しんでいくことが大事だ。会員との交流から手作りキットやバレンタインキットが生まれた。また、お菓子のレシピ本も刊行しており、今年11月には新刊が出る予定だ。クオカユーザーの大半は30-40代の女性で、お子さんが学校に入って自分の時間もでてきたという方たちである。注文のリピート率が高く80%弱という点もECの中ではかなりユニークだと思う。
 当社の理念は、クックパッドに近い。「もっとおいしく!、もっと楽しく!」だ。食べ物がコンビニなどのどこにでもあって、簡単な冷凍食品やファーストフードが数百円以下で手に入る時代に、ともすればおいしく安く「手作り」をする理由がみつからないと消費者は感じているのではないだろうか。しかし、一度良い材料と機材を使ってお菓子を作ってみると、意外にとてもおいしいと感動する。そして家庭内や友人からすごいねと言われ、この効果がリピート率につながっているのではと考えている。こうした「お母さんの手づくりが一番おいしい!をお手伝いしたい」が当社のメッセージである。

●ワイン蔵中川氏
 2007年7月にカリフォルニア専門ワインバー「ワイン蔵TOKYO」を新橋にオープンした。当店店舗は高級ワインの提供ではなく、高価ではないカリフォリニアワインを気軽に飲んで楽しんでもらおうという基本コンセプトで運営しており、都心のビジネスマンやOLの方々の利用が多くなっている。例えば、出張でシリコンバレーに行ってナパバレーに触れた方々が口コミで初めて来店して頂いたり、情報誌でナパバレーのワインを知り、来店するというケースが多い。
 私自身が18年間慶応で学んだせいもあって、自分のネットワークで来店して頂くお客様が多く、ここ3ヶ月の38%のお客様が慶応出身の方を介したもので、まだまだ学校にお世話になってしまっている。ワインと軽いお食事を提供するというリアルなショップを経営している中で、ネットの活用や実際のユーザーの嗜好変化などについて今回勉強させて頂ければと思う。

●国領所長
 クックパッドの料理を楽しくするという基本コンセプト、そしてネットという低コストメディアにおいてサービスを徹底すると価値がそこから生まれてくるという考えは大変興味がある。クオカは、手作りカスタマイズのこだわりと、かつては細分化された世界で産業化できなかったビジネスを産業化したところに面白さがある。
 この「食文化とネット」のテーマは色々な切り口がありうる。たとえば農業のように、あえて食生活の起点で考えて、かつマスプロダクションに対するアンチテーゼを考えてみることが出来る。具体的なところで伺いたいが、クックパッドにとって、顧客は消費者という存在だけなのか、緊張関係というものはないのか?。

●佐野氏
 ユーザーとクックパッドにはwin-winしか考えていない。どうやってwin-winを作り出すかがクックパッドの役割であり、win-loseになってしまうのでは当社の存在意義はない。

●国領所長
 メーカーは商品を売りたいという本質がある。商品を消費者に押し付ける傾向もあるメーカーとの間にクックパッドはどう介在するか?。メーカーの方々と消費者に分断があって、そこをクックパッドがつないでいくという感じか?。

●佐野氏
 クックパッドはまじめという印象がユーザーにあり、それを大事にしたい。メーカーはユーザーに負けないようにどうやったらもっとおいしい安全なものができるのかについて日々研究して取り組んでおり、付加価値をどうやってつけるかに真剣だ。例えば油博士とかお酢博士がメーカーにはいる。売らんかなにみえるメーカーは実は食について真剣だ。そう見えてしまうのはもったいない。
 漠然と感じているのは、テレビは偉大だということだ。今の商売のあり方はテレビが作ってきたといっても過言ではない。ただし現在のテレビは非効率なメディアになっている。例えば、左利きの人のための防水ペンを作っても、テレビ宣伝をやっても無駄になるわけで、大量の均質な消費者向けの宣伝がテレビには合っている。ネット広告のビジネスチャンスは、本当に必要としている人に低いコストで発信するというテレビでは採算が合わなかったところだ。

●国領所長
 クオカのプレゼンには、材料へのこだわりと、家業からのノウハウと経営資源という2つのメッセージがあったように思う。消費者がおいしいと思うことと、消費者が楽しくなるという視点の二つは衝突はない。クオカはその点を踏まえているが、どうやってwin-win関係を作っているか?。またクオカは海外市場はどう考えているか?。

●斎藤氏
 当社は、佐野さんの話で言えば左手防水ペンの領域がビジネスだ。お菓子材料だけの店が一定規模の産業として存在するのかといえば、従来は菓子材料店は産業として真剣に取り組んでいるところがなかった。例えば、フランス製のバローナチョコという材料は卸問屋の販売最低ロットが何と100kgだ。しかし徳島発であってもネットでローコストで全国にマーケットを広げることで量を集約し、卸問屋とも取引が成立できる。
 クオカのリアルショップにはアジアの顧客が多く、上海、シンガポールのメディアからの雑誌取材も多くなっている。アジアの経済発展でスイーツブームがきているのではないか。

●国領所長
 中川さんは、「空間」と「ワインを楽しんでいる間に得られるネットワーク」にこだわっていらっしゃる。ワインを売っているようで、実際に提供されているのは空間、ネットワークのどちらか?。

●中川氏 
 リアルでいい接客をすれば、カリフォルニアワインの情報発信基地として相乗効果が出てくる。当店のお客様はほとんどがワインについて専門知識のない方々であり、店での会話の中からスタッフがお客様の好みを探ってお薦めしている。そういうやりとりの中でワイン好きな人が増えていって、薀蓄やよもやま話を語るようになり、お客様の関心も広がり、また当店のネットワークも広がっていくと思う。

●国領所長
 三人で共通しているのはこだわりの姿勢だ。メディア、チャネル、広告のそれぞれが変わりつつある現在において、最終的には消費者の情報行動がどう変化つつあるのかをしっかりフォローしているようだ。各人はそれをどう感じ経営に活かしているか?。

●佐野氏
 クックパッドでは消費者(ユーザー)の側が受動的に受け取る情報を大事にしている。ユーザーは積極的で発信が好きな人のように見えて、実は宣伝や口コミなど受動的に受ける情報は頭の中に入ってきており、購買決定に影響力が大きいと思っている。

●斎藤氏
 こだわりの時代といわれて久しいが、今の消費者は誰でもどこでも手に入るものが本当に欲しいのだろうか。チョコレートの材料は売っているものが3種類しかない店に入るのと、千種類もある店に入るのと、どちらがわくわくするか?。これまでは実現する手段がなかっただけではないかと思う。ネットなき時代の世の中には、人類はこだわりをうまく流通させる手段がなかった。しかしネットは多様性を低コストでユーザーの消費者に届けられる。現在はネットの普及により人類は手段や技術を手に入れたという段階であり、実際はこれからだ。

●国領所長
 次に双方向性の話をしたい。メディアの状況が以前となにが違うかというとインタラクティブだ。ユーザーの側から価値ある情報を出してもらう、あるいはネット運営者が引き出すという点に大きな可能性がある。各社の極意は何か?。

●佐野氏
 クックパッドのユーザーは能動的にレシピを作って発信するだけではなく、他人のレシピを良く見ており、気に入ったレシピは印刷して控えている。あるいは印刷せずともブラウザの「お気に入り」に登録している。こうやってレシピを作ったり閲覧したりコメントしたりする活動で生まれた膨大なデータを活かせるのがテクノロジーだ。インターネットだとユーザーが自然に勝手に集まってくる。リアルのお店のようにもっとこちらから積極的にお客様から情報を頂こうとしていないのに、情報は既に沢山いただいている。それを分析して活用しきれてない、処理しきれてない情報が膨大にある。こうした情報のデータ解析にはかなり時間かかるのだが。人間の実生活と生の嗜好が存在する宝の山をどうやって活用するかがこれからのカギだと思う。

●国領所長
 クオカは、ネット通販70%、他はリアルショップと外販という売上構成だが、事業間の役割分担や設計思想を聞かせてほしい。

●斎藤氏
 お菓子作りはリアルな体験で、いくらネットが発達してもその行為自体はなくならない。ネットを介しながら、リアルな場を提供したい。ショップ担当者には、あなたたちのライバルはネットのクオカコムだと言いきかせている。実際の 相談に乗ったり、リアルな体験をすぐに出来るのがショップの役割で、デモキッチンのような体験の場を用意している。現在のクオカの課題は、30-40代の趣味がお菓子作りといってる人にしかリーチできてない点だ。若年層や中高年のような時間がないとか念入りな手作りに躊躇する層にも心に響くように「混ぜて焼くだけでおいしい手作りキット」を販売開始しメニユーを増やしているところだ。

●国領所長
 話を聞いていると、「こだわりの産業化」をしようとしているように思える。こだわりを産業化し、ビジネス化するってどういうことなのか?。あるいは、こだわりをビジネスに取り入れつつも、株式公開を果たして不特定多数の株主のために会社の利益追求をしなければならない。株主、ユーザー、提携するメーカー・流通会社のいう狭間で、どう会社を運営したらよいかと思っているか?。

●佐野氏
 株式を公開して、これまで大変だったでしょうと言われるが、まだ1%もやりたいことは出来ていない。クックパッドのあるべきイメージはまだまだ具体化していないからだ。クックパッドのユーザーが700万人になったといっても、日本にもアジアにも膨大な人口がいる中にクックパッドが浸透したとはとても言えない。家庭内のネットユーザーは二次曲線的に急速に増えており、家庭内のライフスタイルはインターネットの情報が変えている。クックパッドもそれに貢献していると思うし、クックパッドがなかった日本というのは違う日本になっていたと思う。
 大学を卒業するとき、一番ふりかえってくやしかったのは何をやっても私的なグループのためだけのイベントになってしまうことだ。電気自動車、ソーラーカーなどで地元の小学生集め、キャンプや地元野菜を売ってみたりとか色々やっていたが、単なるイベントにしかならず、成果がほとんど残らなかった。
 学生や少数の集まりで面白いことをしてみて、後世に残すとか社会にちゃんとしたものを発信するには企業として行うべきであることを後になって認識した。人間がよりよい社会を作るためにはやはり一人とか友達同士では成し遂げられない。試行錯誤した結果、何がしかの成果を残すためには、法人格のある企業を作り、投資家等から資金を受け入れることが必要と思った。まずは自分達がやりたいと思うプロジェクトを少しでも大きくしようと、この会社を設立し、12年間試行錯誤をしてきた。ちなみに、本日10月1日はちょうどクックパッドの誕生日だ。
 クックパッド社内においても、株式公開は社内の力を浪費させてしまうという意見が少なくなかった。しかし、社会の一員として、特にネット社会で小さからぬ存在になろうとしている段階では、先人の企業が試行錯誤して導入してきたコンプライアンスや、ガバナンスはクックパッドを世に発信し価値を高める効果があると考えた。

●国領所長
 クオカは、ベースとなっているのが実家の稼業だが、商売はどのようにお父上から教えてもらったか?。そういう家に育ったということで制約もあるのか?。例えば、斎藤さんの家のような家業の伝統的なノウハウや考えを活かしつつ新しいものを取り込んでいくことでベンチャーの失敗リスクを下げていくことも可能ではないか?。

●斎藤氏
 実家の会社に入って4年後の1998年に、父親からお前が社長をやれと言われた。しかし、会社は全然儲かっていなかった。父親からは「この商売はもうからんのだ。もうけすぎては駄目。お客さんが喜んでいるのが前提だから。信用されないと130年も会社は続かない。」と言われた。そういう父から聞いた、決してロジカルではないエモーショナルな部分の影響は受け継いでいる。
 昭和の時代から問屋不要論が言われ続けてきた。実家の会社は日本製粉の特約店であって、競合する日清製粉の小麦粉は扱えない。特約店でのメリットもあったのだが、現実は末端の顧客・ユーザーを向いていない経営だ。これでは駄目になると思った。それで、卸売ではなく小売に出ていけば、その伝統の枠から逸れて何かやれるのではと考えた。クオカという小売は別会社にしたが、それは実家の会社がお行儀の悪い問屋だねとメーカーに思われるリスクを避けたからだ。

●国領所長
 ワイン蔵TOKYOは、新橋というロケーションであるが、ビジネスとして考えたときどういうビジョンとコンセプトを持ったか?。また多店舗展開の考えはあるか?。

●中川氏
 新橋の烏森通りは日本で一番人が通るとのデータがあり、絶好のチャンスと思って店舗を決めた。当時は間違いに気がつかなかったが、新橋にワインバーがないという判断もあった。去年の9月のリーマンショック以降は単価の高い銀座のお店はどの業態も深刻だ。その点で結果的にいい立地だったと思っている。
 店を増やすのは慎重にやるつもりだ。2店舗目、3店舗目を出すほど儲かってないというのが現実だが。斎藤さんのお父上が130年間つづけるにはもうけすぎるなという話を聞いて納得した気がする。

●国領所長
 食文化としての食ビジネスという観点から一言ずついただきたい

●佐野氏
 日本は食に関しては豊かな文化がある。世界第二位の経済大国、科学技術立国になっても食の伝統を維持しつづけている不思議な国だ。食はそれぞれの国の文化が交流してひとつになっていける貴重な財産だ。クックパッドは食文化を通じて世界に対して役に立てると思っている。アメリカ人の医療格差には食生活に原因があるように、食というのは人類にとって改めて重要であって、今後人類が永続的に発展する上でのキーポイントだと思う。単なるビジネスチャンスだけではなく、自分自身の危機感として食文化を考えている。食を道具に考えれば、日本は世界的にもまだまだ面白い国ではないか。

●斎藤氏
 糸井重里さんと対談したとき、物を買うということはものづくりに参加することだと言われた。昨今はともかく安いものがいい、プライベートブランドの50円の麦茶が流通する中で良いモノを作ろうという生産者が消えてしまい、良いモノのを売ろうという小売業もいなくなるのではという恐怖感を改めて感じた。バラ色の未来は描けない日本で、クオカが出来ることは、良い生産者と良い消費者を結びつけるブリッジにどれだけなれるかということだ。しっかりとした信頼できる情報とともに、いい値段で届けられるよう頑張っていきたい。
 また、男性の方、ご結婚されてる方は、奥様のお料理をほめていただきたい。それが日本の食文化を作り、世界をリードすることになると思う。

●慶應大学院生(質問)
 クックパッドの中立性について伺いたい。クックパッドでは企業の販促サイトではないかと消費者から思われるリスクはあるのではないか?。

●佐野氏
 社内でもその議論は昔からあり、スタンスのバランスをどう取っていくかがカギになっている。日本の家計消費では食品だけで年に40兆円使っている中で、仮にクックパッドが食品メーカーから宣伝費を年間100億円頂いても全体としてみれば微々たるもので、このスケール感から言っても食品産業がクックパッドに大きな経営資源を割いて影響力を及ぼしているということには到底ならない。

●中川氏
 欧米ではワインが食文化に完全に入り込んでいるが、日本でもここにきて週末の家庭で楽しむ文化が少しずつ広がっている。私達のワイン蔵TOKYOでは、ワイン文化をわかってきたお客様が「とりあえず白ワイン」と言ってくれるようになってきた。

●国領所長
 このセッションを要約すると、「こだわり」だ。こうしたこだわりをいかに大事にしていけるか、一つの塊を具体的なビジネスの形にしていくということがインターネットやビジネスモデルという技術で出来るようになってきた。ベンチャーは顧客起点のモデルを構築しながら、時代に向けて頑張っていければ良い。食にはものすごく大きな資産がある。そこでは食べる目的の財サービスを供給するだけではなく、付加価値のある情報と当事者同士の情報交流を加味することが、人間としてきわめて重要な健康につながっていくのだろう。(了)

13:40~15:40
《プレゼンテーション+座談会5》 『次世代技術が未来を拓く』

株式会社インターネット総合研究所 代表取締役 藤原 洋氏
株式会社アキブシステムズ CTO 中山 秀人氏
株式会社ザクセル 代表取締役 鈴木 則久氏
スパイバー株式会社 代表取締役会長 中山 佳久氏
ナイトライド・セミコンダクター株式会社 代表取締役 村本 宜彦氏

●インターネット総合研究所藤原氏(プレゼンテーション)  環境エネルギー革命にITベンチャーの新たな役割がある。環境という分野は官僚主導で今まできたが、これからは起業家が主導で、発明発見し、技術を出していく方向に動いていく。TMT日米共同の反射鏡プロジェクト、東大とソーラTAOのプロジェクトで太陽光発電の実験などを行っている。これからの情報通信政策は、情報スーパーハイウェイからエネルギースーパーハイウェイに変わるべきだ。

●アキブシステムズ中山氏(プレゼンテーション)
 当社は「PCI Express Bassed Network System」という超高機能のネットワーク機器を開発している。ハードウェアは高性能化、計算能力の進化があるが、通信とネットワークは変わっていない。ここに技術的な不均衡を感じ、速いネットワークを作ろうとして当社を設立した。

●ザクセル鈴木氏(プレゼンテーション)
 デジタルシネマ市場の動向をみると、DCI標準を決め、それによって今日のコンテンツは配布されている。ハリウッドは、デジタルシネマにおいてDCIという標準を決め、DCI準拠のコンテンツを配布している。DCIフォーマットは、コンテンツ・フォーマット全体の標準となろうとしている。当社は自社独自のロスレス圧縮の技術を応用し、コンテンツ作成が簡単で映像の質が高く廉価なデジタルシネマサーバーを開発している。

●スパイバー中山氏(プレゼンテーション)
 慶応発のベンチャーで設立してちょうど2年が経過したところだが、大手VCより2億5000万円の資金調達ができた。高機能繊維の市場は成長している。当社は天然の蜘蛛の糸ではなく、蜘蛛の糸を解析して、遺伝子学的に人工で作成し、大量生産が出来るようにする。今年の4月に長繊維化に成功した。

●ナイトライド・セミコンダクター村本氏(プレゼンテーション)
 当社は紫外線LEDを開発している。この技術は9年前はほとんどの専門家から開発は止めておけと言われたものであるが、時代の変遷とともに認められるようになってきた。現在の白色LEDは青色LEDを使用したものが主流であるが、UV-LEDを使用したものが徐々に主流になってくるだろう。将来の青色LED市場は世界で年間3兆円のマーケットともいわれており膨大だ。当社はこの分野の先端開発者としてその一部を取っていきたい。

◎討論セッション

●藤原氏
 本日は日本のベンチャーの深く濃い技術畑の人が並んでおり、わくわくしている。立ち上げの苦労話を聞きたい。

●アキブ中山氏
 技術的な面では苦労はなく、むしろ楽しかった。現在は技術者である自分が経営を学ぶという面で苦労がある。

●鈴木氏
 当社はDCIに準拠しながら、その問題点をクリアするようなデジタルシネマの独自フォーマットを用いている。かなりの特徴、優位性があっても、競争は難しい。我々のハードルは大手ユーザーの標準的製品として入り込むということであり、これが当社のキャズムだ。これを乗り越えるのに苦心している。

●藤原氏
 市場で勝てるかどうかは、標準化との戦いだ。仲間を作りながらマーケット標準を作っていくことが重要だ。

●アキブ中山氏
 当社の競争相手はシスコ・システムズという1兆円を超える時価総額の会社だ。一つの製品といえどもこうした巨大企業に伍していくにはイノベーションがなければ対抗できない。日本のエレクトロニクス産業は保守的で、シリコンバレーでグーグルなどに支援したようなベンチャー支援をしようとする人が少ない。さらには現場の高度専門技術に強い大学教授や研究員は極めて少ないし、また若い人達にチャンスをあげる文化がない。こうした「ないないづくし」があるために、日本の技術ベンチャーは本当に苦労する。

●村本氏
 大胆な言い方だが、経営は100%人にまつわることである。従業員の無気力も馬鹿も、否定してかからずに、制限ある資源をうまく使っていくのが経営者であると思う。

●アキブ中山氏
 コンピュータエンジニアでは個々人の能力格差が大きい。しかし、現在出来る人、有能な人が必ずしも学生時代に勉強して優秀であったわけでもない。向き不向きがあるということだろう。古いスタイルだが気合と根性が求められるし、「本当に発想できる人」と「本当に出来る技術者」を発掘することだ。発想できる人に優秀な技術者はついていく。

●藤原氏
 日本はまだ革新的なコンセプトを打ち出せるような人は出てこないのか?

●アキブ中山氏
 いや、いるけれども、出る釘は打たれるのである。自分はこう思う、こうやりたいと雑談で話す人はいるが、最後は組織があって上司がいるので、色づけされつぶされてしまう。

●鈴木氏
 ITエンジニアでは仕事が出来ない馬鹿な人がいたら困る。もしもそういう人を雇ってしまったら、早くやめてもらうしかない。であるから、採用は会社としてきわめて重要な決定事項であり、どんな人材も社長が直接会って長時間面談し、自分で考え答えられる人を社長自身で採用決定している。

●村本氏
 当社の開発では、理論的には限界があったところを現場で長時間錯誤しながら開発を続けたエンジニアが最終的に壁を破ってやり遂げた。理論的限界があり、これ以上数字があがらないと研究開発のトップは言ったが、その壁を現場の若手エンジニアが破ってやり遂げた。

●藤原氏
 壁を破れないのは常識に捕われているというのが本質であると思う。常識にとらわれて社会なり会社が停滞する。それを打ち破ることだ。

●スパイバー中山氏
 定義があるものとして前提においていくと発明が生まれてこない。それは何であるか考えると発明が生まれてくる。

●アキブ中山氏
 従来の思考を変え、やり方を変える。やり方を変えることで限界を超える。そのような人はなかなか育たない。当社は天才のようなエンジニアがおり助かっているが、企業内では壁を打ち破れる人材を意図的計画的に育てることは不可能だと思う。コンピュータ業界は革新的アイデアを持ったエンジニアが切り開いていくことは伝統に裏付けられた常識だ。

●村本氏
 当社はすばらしい人材がたまたま採用した集団の中に混じっていたのであって、目的を持って人材を育てたことはなかった。しかし、そういう革新的な、殻を破れる発想を持った人材は、働く企業の風土、DNAが大切であって、社内でそのような人材に適するフィットするような、あるいは社内が皆で壁を乗り越えていくような風土を作る必要があるのではないか。私はそういった考えを朝礼で言い続けており、続ければ何らかの定着と効果があると信じている。感覚的になっても、トップが期待するミッションや会社のありようは次第にエンジニア、営業、管理に伝播していくと思う。

●スパイバー中山氏
 ベンチャー企業で働くことはどういうことかというと、統計学的にみて倒産するリスクは90%以上あるということだ。つまり1社勤務で終わる人生ではなく、いずれ自分の実力を市場で評価してもらう人生であるから、そういう人間には高い志がないと挫折する可能性が高い。権威があってプライドがある人が、実際の実力テストで負けることはよくあることではないか。

●徳島大学学生(質問)
 若いうちにやっていていて、今も役立っていることはあるか?。

●村本氏
 私は体育会系であるが、そこで培ったリーダーシップは重要だ。出来ないことを乗り越えるには、若い時期にがむしゃらにやり続けることが大切だ。

●スパイバー中山氏
 私は30代にたまたまシリコンバレーにいて、北米のベンチャーが急成長したところにいた。そこで仕事をさせてもらった経験が今に活きていると思う。

●鈴木氏
 ベンチャー経営はまずは体力だ。私は学生時代は運動していたが、今も1日30分以上は運動している。

●アキブ中山氏
 学生の頃、アップルのCPUが20万円以上していた時代に、バイトをしていた秋葉原のショップでマザーボードを組み立ててそれが動いた嬉しさが今につながっている。

●徳島大学生(質問)
 今の学生に感じることは何か?。

●アキブ中山氏
 はやりの草食系男子にはならず、肉食系であってほしい、いっぱい遊び、それが将来の血肉になると思う。

●鈴木氏
 昨今の日本は数理の実力が落ちている。特に、ベンチャーをやりたい人は勉強してほしい。数学、物理は若い時でないと身につかない。

●スパイバー中山氏
 若い人をみると精神的に弱い人が多い。精神的に追い込まれた時に高いパフォーマンスを出す人が少ないように感じる。賢い経営判断をするには、強さが必要。例えば、潰れかかっている大変な会社にバイトにいき、追い込まれた時にどう判断するかを学んでほしい。

●村本氏
 かわいい女の子が寄ってくるような魅力のある男。異性にも同性にもモテる男になってほしい。若い時期はそうなりたいのが普通の考えであって、小さく常識にあわせて良い子になる必要はない。他人から凄いと思われる魅力を出すような男に自分を鍛えることではないか?。(了)

16:00-17:30
《座談会》『ベンチャーキャピタリストが語り合うⅣ ~金融危機後を見据えたVC投資戦略~』

九州ベンチャーパートナーズ 取締役 水口 啓氏
インフィニティ・ベンチャーズLP 代表パートナー 小林 雅氏
NTVP 代表 村口 和孝

●村口
 この座談会のセッションは4回目になるが、毎回その時点における環境と情勢を語りながらベンチャーキャピタルとベンチャーがどう考えているのか、どう動くのかを語るような時間としている。
 ベンチャー企業を全体的にみると、リーマンショックによる金融不況下でベンチャーは猛烈なリストラとコストカットで戦線を縮小し、環境好転まで縮みこむ戦術に転化している。しかし、同時に環境対応、新エネルギー開発、高齢化・少子化対応等の市民内需サービスなど、新機軸の需要が生まれつつある構造変化に戦略を切り替えたベンチャーも見られている。
 今回のカンファレンスでは、起業家の直面する「キャズム」をメインテーマに討論してきた。こういう不況下でも、どうやってキャズムを越えるかがベンチャーの大きな課題であることは変わらないのは当然であるが、VCの役割はキャズムを越える前の企業活動をどうやって支援するかである。それはいわば「芝居本番前の稽古場」で役者を鍛錬させるという裏方の役割ともいえる。社会全体が保守化して縮み指向となり、キャズムのような苦しい場に挑戦することを嫌がってしまうと、イノベーションが生まれない停滞社会に長く苦しむことになり、一国家としては是非とも避けなければならない課題ではないかと思う。
 まず、それぞれのベンチャーキャピタリストから、現状をどうみているのか紹介して頂きたい。

●水口氏
 2003年にシリコンバレーから帰国後、2004年より九州ベンチャーパートナーズの設立に参加した。2004年のファンド設立当時、日本のベンチャーキャピタルは積極的な投資をしており、私の勘からすればこういう時期のファンド設立は嫌な時期だなという変な予感がしていた。リーマンショックは予想外の事件であったが、それ以前から開発や販売が停滞した投資先には、私は抜本的なリストラや経営陣入れ替えを行っていた。今回の金融不況は突然やってきて投資先会社にもダメージは少なくなかったが、ここに来て方向感が変わったところもある。例えば半導体ではここ1年で世界的に撤退や再編が起こったために、再編後に息を吹き返した企業が見られ、そういったリバイバル企業からの引き合いが出てきている。現在は、全体として最悪期は越えた、底打ち感が出てきたと判断している。
 しかしながら、大きな谷を越えた後の現在の需要は、優れた製品、高い技術を持つ企業に集中しており、まんべんな需要ではない。多種多様の沢山の投資先を持っている大手VCにとっては、投資先全体にはそうした需要回復は及んだという認識はないだろうし、大手VCは国内IPO市場が回復して良い株価がつかないとゲインが得られにくい構造だけに大変さは続いていると思う。また、日本のファンド出資者である機関投資家の現状をみると、日本のVCを嫌っているといえるほどに評価が低くなっている。日本の機関投資家は、ハンズオンによってしっかりと個々の投資先の経営掌握やモニタリングが出来ていない日本の大手中堅VCを極めて厳しい目で見ているのだ。

●小林氏
 我々インフィニティが運営しているファンドは、国内のネット関連事業会社を中心に約20億円のファンドを海外籍で組成し、2008年より運用を行っている。投資先は国内ネット関連と中国のオンラインゲーム開発の2社で、3社目も中国のコミュニティ開発会社への投資を最近決定した。
 私は他の国内VCと数多く接してはいないため、VC業界の全体状況を解説するほどの情報を持ち合わせていないが、国内バイアウトファンドの担当者達と話していると「日本のバイアウトファンドは終わった」というような発言をするほどに国内のプライベート・エクイティ投資は最悪な状況にあることを感じている。

●村口
 他の国内VCを見ていると、「VCに明日はない」というような話を聞く。出向元の金融機関や事業会社に復帰するベンチャーキャピタリストも多いようで、全体として国内VCでは3割くらい人が減ったのではないか。
 私の投資先も、外部環境がこういう状況だけに実際の売上が景気の影響をもろに受けているけれども、その中で今回のカンファレンスに参加したウォーターダイレクトやナイトライドセミコンダクターでは売上が急速に増えている。しかし、借入のあるベンチャーはかなり苦しい。

●水口氏
 当社の投資先でも数社は借入があり、その多くは私も手伝いながらリスケを完了した。

●小林氏
 私のファンドの投資先はすべてネットベンチャーで、設備投資も人員も少ないので、大規模投資型の企業運営はしていない。必然的に資金はすべてエクイティで、借入をしている企業はない。

●村口
 これから向こう10年をみた場合、日本のVCはどのような戦略を基本とすべきだろうか?。また、仮に大きな資金を預った場合は、今後どういったところに新規投資をするか?。

●小林氏
 中国のローコスト型の新興家電メーカーや家電量販店に注目している。例えば中国の船井電機、ヤマダ電機といったところだ。経済のパイ自体がどんどん膨らんで、国民の所得水準もモノへの要求水準が高くなっている経済では、家電製品に需要が向かうのは必然だ。一方、日本は経済全体、あるいは業種セクターの成長率自体が低いので、この需要やニーズ向けにモノを売ろうという新しいプロジェクトには面白みがない。私は世界レベルでみて成長力の高いセクターに資金を投入したいので、どうしても日本のベンチャーの評価は低くなるのだと思う。ただし、日本のネット産業は、特にコミュニケーションに関する市場の潜在成長力は高いと考えており、また今後もニーズや供給サービスが大きく変化していくと思うので、このサブセクターには常に注目してフォローしていくつもりだ。

●水口氏
 日本以外のアジアのベンチャーキャピタリストの99%が中国投資に注目している一方、日本には全く関心がない。中国という巨大な人口の前では、何も難しい技術やサービスをひねり出さなくとも中国国内市場で充分な売上を確保できると彼らは思っている。
 日本のVCは、VCビジネスの経験、技術、ネットワークが何ら後輩に継承されていないのではないか。系列会社としてVCが運営されているがために、VCの経営陣も幹部も人事異動でそっくり入れ替わってしまっている。特にこの不況でVCの業績が悪化したために、今回はごそっと人が入れ替わっている。

●村口
 同感だ。日本だけに存在する系列型、会社型、組織型という世界にないガラパゴスVCの宿命的な問題点だ。

●水口
 系列型ベンチャーキャピタルとしてVCが設立されて、親会社の衛星ビジネスを運営するという日本のVCのプラットフォームと企業文化の中で、ベンチャーキャピタリストが金太郎飴のように一律平均的で他者追随的な仕事をしてしまっている。VC産業全体としての理由は納得しても、個々のキャピタリストの仕事の現実をみると本当に不思議だ。

●会場より質問
 地方では、新規事業への現場のやる気が全くなく、地方停滞の原因は人材にあるのではと思っているが、これをどう見ているか?。

●水口氏
 私は九州を本拠としているが、九州のような地域全体のスローペース文化はどうにもコントロールできない。場合によって投資先の本社を首都圏に移すことも臨機応変に行っている。

●村口
 地方ベンチャーは地域内のキャズムを越えても市場規模は小さい。域外展開や全国展開を目標として、それができるだけの能力・体制を持ったベンチャーを私としては支援する。また、地方はローコストの利点もあり、ローコストを徹底してそれを長所にできる事業で成長させていくベンチャーも、これまで私だけでなく日本のVCは支援してきた。確かに地方は保守的な人材も多く、買ってもらう市場も保守的だが、その比率が首都圏よりはるかに高いとは言えないと思うが、新しい考え、モノ、サービスに敏感に反応する先端的な個人層の絶対数が少ない。

●村口
 最後に、今後のVC戦略を、キーワードをあげて紹介願いたい。

●水口氏
 好況でも不況でも、「忍耐強く取り組むこと」がVCの基本だ。ベンチャーが書いた事業計画がそのとおりいく訳がないのであり、VCも投資先の状況にあわせて支援の中身を柔軟かつ俊敏に変えていくべきだ。投資時点の計画通りに投資先がいっていないとか、前と話が違うとかいって、投資先が深刻な状況になるほど逃げてしまうVCが多すぎると思う。

●小林氏
 日本の投資家は過去の経験、特に悪い思い出や苦い体験に引きずられすぎると思う。ベンチャーのプロジェクトは過去とは不連続のブレイクスルーがあってこそ急成長しているし、それは予想外のことが多い。破綻したり長期低迷している事業であっても、ご破算に願いましてという発想が重要なはずだ。

●村口
 今後も、今回登場した2人の討論者に何度も登場願って、日本のVCや世界の投資環境について定点観測を行っていきたい。(了)

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