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Break Through

スタッフによるリレーコラム

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『エンジニアによるベンチャー起業のすすめ』 6月号

「日本人よ、人生の根元的動機に目を開け!」

イメージ私がベンチャーキャピタリストになるのに、それなりの道のりがありましたが、大変お世話になったアメリカ人に、ジョアンという金髪の女性がいます。シリコンバレーに行くたびに、フリモントの家にお世話になり私のシリコンバレー詣での拠点を提供してくれていました。

そのジョアンが昨年すなわち1998年10月、数年前にわずらったガンが再発して、連絡があって一月もしないうちに突然62歳の生涯を閉じました。お見舞いに駈け付けるため準備した飛行機のチケットは、葬儀のためのチケットになりました。もうすぐ40歳を迎えようとしていた大の大人の私は、行っている間中、ジョアンの事を思い出しては嗚咽がこみ上げてどうしようもありませんでした。ジョアンが死ぬ半年前に、私は独立を実現し、準備のためにアメリカを立て続けに2回訪問し、ジョアンとあれこれ話をしたのがせめてもの慰めでした。投資事業組合設立に関し、夫のアートが大丈夫かと理性的に心配してくれているそばで、ジョアンは私に「あなたならきっと成功する。私はいつもあなたを誇りにしています。」と励ましてくれました。成功したらジョアンとアートを日本に客船で招待すると約束していた私は、こんなことになってしまって、もっと早く独立してれば良かったか、とも思いました。「後悔先にたたず」とはこれらの事を言っているのでしょうか。ちなみに小企業の秘書業をしていたジョアンがNTVPのアメリカの連絡役になってくれることになっていて、初期の私の事務所案内には、シリコンバレー連絡事務所としてジョアンの名とともに記載してありました。したがって、NTVPアメリカの最初のメンバーは、今は無きジョアンだということです。彼女は、庭とエレクトーンの演奏が趣味でした。ご冥福をお祈りいたします。

さて、人生という長い時間と、ベンチャーを起業するという作業とはまったく無関係ではあり得ません。年輩の読者には申し訳ありませんが、「年齢という人生の変数も重要な変数」として頭においておかないと、光陰矢のごとしです。また、書きにくい事をあえて書くと、株式公開すると言って業績好調だった経営者がまだ五十歳を超えたばかりの若さというのに、心筋梗塞で突然他界した事例にも出くわしたことがあります。こんなことは誰もなかなか書きませんが、これが現実と言うものです。(BTはいつも正直に現実を取り上げます。)また、ベンチャーの起業には、人生と同じくらいさまざまなことがありますし、5月号で書いた通りそもそも成功には人生をかけねばなりません(ただし何度も主張しますが、借金はしません)。6月号は、ジョアンの死から、敢えてこれまでのベンチャー論にない人の死と言うものを真正面から捉える事から、ベンチャーを考えてみたいと思います。

残念ながら、人である以上、どこかで人生を終わらねばなりません。しかし、考えようによっては人生、いつか終わる事を認識して、はじめてすばらしい人生を送れるとも言えるのではないでしょうか。「あなたは、なぜ毎日一生懸命仕事をしているのでしょうか?」また、「人生をかけてベンチャーをやろうと言うことをどう納得すれば良いのか?」そもそも「どういう人生を生きるべきか?」肉親に不幸が起こるときぐらいしか考えないという人も多いかもしれません。しかし、いったん独立した企業家となるとき、この人生の根本問題に何らかの回答を持っていないと、「人生をかける」などといっても、肝心な点で弱いように思います。人間にとっては、「芯の問題」「死生観」というような、本来宗教とか哲学が担ってきた議論です。オリンピックに参加した選手が、全人生をかけてメダルを獲得しようとして競技する瞬間の集中力にも関係が深いと思います。柔道にしても水泳にしても日本人選手は近年オリンピックにおいて実力が発揮できない、という問題に悩まされてきたという話を聞いたことがありますが、同根の問題といってよいでしょう。日の丸がはためいていようが、応援団が大騒ぎしようが、競技の瞬間選手は孤独です。日本人である、どこかの組織に属して規則がこうなっている、資産の有り無し、がんばる義務がある、上司がこう言っている、というような表層的なことは、スタート台に立った選手にとってはまったく無意味です。まったく助けのない素っ裸の立場に立たされた選手は、何を根拠に競技に集中し、他の選手を打ち負かし、勝利しなければならないのか、まさに地(ヂ)の人間の「生きる動機」が問われています。そこに通用する論理は、人生の根本問題に対する答えを自分でどう持っているか、という現実のみです。死にどう対峙するか、という問題と、同次元の問題が横たわっています。この音も色もないあなたの心の深淵世界、ここがいわゆる混沌とした眠い混乱世界になっているのか、静かで清らかで豊かで集中力と創造性にあふれた世界になっているか、の違いです。

日本人は長らく組織に属するということに慣らされてきました。特に高度成長期つまり1970年代以降、我々は偏差値教育から受験戦争、就職戦争においてあらゆる独立個人の生き方よりも、「長いものには巻かれろ」が人生必勝の方程式のように信じられた不幸な時代を過ごしてきたともいえます。いわゆる大企業サラリーマンが日本人の中で一番安定した高収入の職業になった数十年であったのではないでしょうか。サラリーマンの世界は、テレビゲームの世界に近く、そこでは社会生活のルール(日本国憲法や地域のルール)よりも、ゲームのルール(冠婚葬祭まで介入する大会社の就業規則)の方が現実感がある、いわばサラリーマンバーチャルリアリティの閉じた人工的世界です。だから長銀問題のように、「集団の常識、社会の非常識」という事が言われます。今、日本はビッグバンの真っ最中。サラリーマンパラダイムがゆっくりと根本的に崩壊しつつあると言ってよいでしょう。

このサラリーマンパラダイムは、人間存在の根底を深く問われることなく、人事異動があったり昇級昇格があったり、塀の中の悲喜劇がさも世界全体であるかのように、ある意味で漠然と時間が過ぎていく世界です。今、日本人は一刻も早くサラリーマンパラダイムから脱却し、それぞれ一人一人、自己存在の深淵に問いかけ、しっかりした人生の動機を確立しておくべき時期が来ているのでしょう。そうでなければ、やれベンチャーの起業だなどと言ってみたところで、混沌の中に身を投げ出すような不安感にさいなまれることになるのではないでしょうか?実際には、塀の中だけが世界だと思いこんでいただけのことだったと、独立したらすぐ気がつくことですが�私の場合も実際独立すると、周りが非常によく見えるようになりました。

以上の考察から、特にサラリーマンの方は、ベンチャー起業の根底には「人生の動機、これから人生に対する考え方、心構え」が不可欠である点をよく認識していただきたいと思います。そのためには、昔の人のように数ヶ月休みを取って四国八十八カ所参りをして歩いたり、外国をしばらくぼんやり放浪したりするのもあながち意味がないわけではないかもしれません。また、日本においてはそういう人生観の基礎ができる青少年に対する家庭、地域社会、学校における教育の問題が横たわっている点も指摘できましょう。

BTベンチャー起業手順論 「PVPモデル」(Vol.1)

Step1 「強い思いを醸成する」

6月号から、このコーナーでベンチャー起業手順論を数回に分けて解説していきます。まず、4月号で取り上げた「新しい創業ベンチャープロジェクト(PVP)」を復習しておきましょう(以下参照)。

PVPモデル
1. 純粋な発展への強い思い(来る日も来る日も粘り強く考え思う=個人の強化)

2. 基本的な気になる「大問題」は、1年くらいかけて、出きるだけ早く解決する

3. 現状分析(特に人材能力、環境)を基にした、株式公開可能な「売れる」事業シナリオの選択 
・新しい株式公開の観点=投資家へ魅力のアピール=産業社会的インパクト有り?
・ビジネスモデルの構築(同じ事業でも、それにより必要資本・人材・組織に差)
・「密やかな検討期間」が、大いなる飛躍のためには重要な事がある(情報オープン必ずしも最善ならず)

4. 株式増資による借入によらない事業資本の調達シナリオ検討
・資本はその気になれば増資で数千万円から数億円調達可能(資本政策)、中途半端はだめ。
・相談相手が重要(株主政策は非常にデリケートな問題)

5. 事業計画の策定、投資家(ベンチャーキャピタル)への提示・交渉・個の意思決定
・徹底した開示が前提=監査法人の監査、市場分析、財務計画(5年で公開前提)
・個の意思決定には、家族、特に配偶者の納得が重要
・投資契約(合意書)の締結

6. ファイナンスの実行=外部株主との共同作業がスタート=取締役会の充実=計画遂行

7. 契約類の整備の必要性(特に技術系ベンチャーは重要)

8. 株式公開の準備、審査・PR活動(開示のための、組織管理体制の独特の整備)

9. 株式公開(一般投資家売買開始)→公開会社としての活動→更なる変転・発展

10. M&Aによる買収も売却もあり得る(個人が根本、「会社」はベンチャープロジェクト実現のフレームに過ぎない、という冷静な認識重要

6月号はその成功の第一ステップ「強い思い」です。まず、何が重要と言って、BTでずっと強調してきているとおり、ベンチャーを起業しようとする者、あるいは参画しようとする者の「個の自立」を図ることが、まず第一です。来る日も来る日も、一人になって未来に対する強い気持ちを(いわば念を)蓄えることです。人の話を聞くことも重要ですが、所詮他人様は他人様でしかありません。最後に人生選択の報いを受けるのは、自分個人をおいてほかにありません。

胸に手を当てて、まず世界が今後5年から10年程度でどうなっていきそうか、よくよく考えてみることです。この世界の変化に気がつく、と言うことがまず重要です。世界の変化を担えるということは、すなわちあなたが世界に貢献すると言うことであり、商売が成功すると言うことだからです。経済的に言うと、市場・時代の大きなニーズに応える仕事をできる、と言うことです。

そのためには、ここ数十年の歴史の動きを振り返ってみることも重要です。10年を見ると、世界は必ずと言っていいほど激変しています。10年一昔と言いますが、激変しない10年はないと言えるのではないでしょうか。10年前、インターネットがこれほど隆盛の兆しを見せるとは誰も想像していなかったでしょう。また、流通革命と言い、まさかダイエーがこんな厳しい状況になるとは思っても見なかったろうし、日本長期信用銀行が経営危機を迎えるとは思いもよらなかったことでしょう。ゴルフ会員権がこんなに暴落するとは思わなかったろうし、アジア経済がこんな事になるとは、神様でない限り想像することすら難しかったことでしょう。しかし、我々は10年どころか、何十年も今後ビジネスを続けていくことになります。ということは、「我々がビジネスをやっている、まさにその途中で、時代の大きな変化に間違いなく見舞われる」、という現実です。

この事実を真正面からとらえると、我々が今どういう気持ちで未来に向かえばよいか、少しはわかります。すなわち、長い目で時代をとらえる目を持つ事、すなわち「現在の時代のパラダイムで未来を見過ぎないことが必要だ」、ということであり、「未来は仮説に過ぎないので、人によって描くシナリオが異なっていて当然だ」、ということを前提に考えないといけない、と言うことです。だからこそ、強い個人の確立がまず重要だ、と申し上げているのです。人に聞いても、それは人の仮説です。自分の考えをまとめていく参考にはできても、鵜呑みにはできません。ただし、人の言うことをまったく聞かないのは、独善に陥ってシナリオの中につまらないミスを混入させることにもなりましょう。人の話はどんどん聞きましょう。ただし、個人を高いところで確立させるのが目的であることを常に忘れないようにしましょう。そのためには、読書も有効でしょう。

また、自分の将来に対するイメージを確立していく上で、あまり、バイト的な目先の収入ばかり考えるのは、かえって未来を見失いますので注意が必要です。小銭儲けばかり考えていると、未来が見えなくなることを、論語は鋭く指摘しています。自分の担うべき時代的役割がおぼろげながら理解して、この論語の境地に至れば、あとは行動という、一触即発の人生状況に至ります。

子の曰く、君子は道を謀りて食を謀らず。耕して餒え其の中に在り、学べば禄其の中に在り。君子は道を憂えて貧しきを憂えず。」先生がいわれた、「君子は道を得ようとつとめるが、食を得ようとはつとめない。[食を得ようとして]耕していても飢えることはあるが、[道を得ようとして]学んでいれば、俸禄はそこに自然と得られる。君子は道のことを心配するが、貧乏なことは心配しない。」(衛霊公第十五より 金谷治訳 岩波文庫)

最後あなたがサラリーマンであることを想定してアドバイスしておきましょう。サラリーマンをやりながら、独立の気持ちの準備を整えるのは賢明です。なぜならサラリーマンは比較的安定した収入が見込めるからです(会社が相当やばいと言う状況でないことが前提ですが�)。サラリーマンをやりながら思いを強くするいい方法は、いくつか考えられます。私のお薦めは、関心のあるビジネス領域が、5年から10年後どうなるか、という問題意識で、とりあえず有給休暇を利用して、ポーンと自腹による海外調査旅行に出かけてしまうことです。海外に行って大いに発見し、驚いてください。今ならディスカウントチケットも簡単に手に入ります。たとえば、台湾だと4万円台、アメリカ西海岸でも7万円程度で往復チケットを買えます。サラリーマンなので十分な準備はできないでしょうから、ダメもとで、とにかく出かけることをおすすめいたします。準備は、最悪、成田や関空の本屋で情報を入手し、飛行機を待っている最中、または飛行機の中で研究してもいいと思います。そのときノートパソコンを持っていって、現地のホテルからインターネットにつなぎ、ホームページを検索して現地についてから情報を検索できるようにすると良いです。(そのためには現地でアクセスできるサービスをプロバイダーに確認しておきましょう。)英語が苦手で、とおっしゃる方が多いのですが、英語の勉強をするよりも、英語ができなくて困った、という経験を積む方がよほど効率がよいと思います。第一、英語を勉強しても残念ながら10年後は見えてきません。英語ができなくとも、問題意識を持って現地に行けば、何かしら見えてくるものです。ただこの行動は、多くのご家庭の場合、配偶者から理解が得られないとできにくかったりします。しかし、ここは配偶者の方を説得してください。説得できない、という場合は、もう一度自分の人生を見つめ直しましょう。サラリーマンの人事転勤・出張を配偶者は簡単に受け入れるのに、本人の意思で何かをしようとすることを配偶者が止める、という事態は、日本人にとって憂慮すべき事態と言えないでしょうか?

昔の人は、貧乏に耐えながら、自分の思いを強めることで、ボクサーとして世界チャンピオンとなったり、世界的経営者になりました。貧乏からの脱出が、成功への思いを醸成するきっかけでした。ところが、現代はいわゆる飽食の時代です。確かにビルゲイツは、貧乏だからマイクロソフトを立ち上げたわけではないでしょう。読者のみなさんで、貧乏で苦しんでいる人はほとんどいないでしょう。(住宅借金で苦しんでいる人はいるでしょうが�)。現代に必要なものは、正しい動機と、個性的な個人の強い思いの醸成以外にはありません。それを読者のみなさんが、ひとりひとり醸成していただく。(残念ながらこれは皆さんにやっていただく以外お手伝いしようがありません。)これが、PVPの第一ステップです。

「事業サイクル」を理解しましょう

回路やパソコンとお友達のエンジニアにとって、「企業とは何か」、という問題は、簡単なようでかえって難しい問いなのかもしれません。たとえば、簡単な問題をお出ししましょう。答えられる方が読者に何人いるでしょうか?

問い:「会社が資金調達する方法に、株を発行する(増資)という、お札を発行するような方法があります。まず、投資家に対して株を発行してお金を集める場合、投資家に対して担保提供ならびに個人保証が必要でしょうか?」また、「株券を発行してお金を集めるその現金になる「株券」は、国の中で誰が作成する権限があるでしょうか?」

4月号を読んだBTの読者ならすぐ答えられるかもしれませんが、まず、株を発行して事業資金を集める場合、担保提供や個人保証は不要です。借り入れではありませんので、そういう経営者個人の保証行為は不要です。また、日銀券は日銀でないと印刷してはいけません。皆さんエンジニアがいかに精密にコピーする世界に冠たる実力をお持ちでも、一万円札は勝手にコピーしてはいけません。一万円でもコピーして使った日には、あっという間に有名人です(監獄行きです)。ところが、商法が規定しておりますが、会社は株券を発行し、事業資金を調達することができます。つまり、一万円札は勝手に印刷すると捕まり大騒ぎになるのに、株券を印刷して投資家に発行するのは、商法が認めています。早い話、株券は雛形が文房具屋に数百円で売っております。これに必要事項を書き入れ、発行の決議をして投資家が買ってくれれば、数百円で買った雛形の株券が、みるみる数千万円の事業資金に化けるのです。そんな馬鹿な話があるか、と思われるかもしれませんが、会社が増資で資金を集める、ということは具体的にはそういうことです。しかも、担保もいらなければ、保証人も要らないのです。そんなことなら私も、と読者は思うでしょうが、「問題は投資家が買ってくれるかどうか、誰が相手にしてくれるか」、と言う一点であることを条件として押さえておきましょう。実際に4月号のBTでご紹介した去年の9月設立のインフォテリア株式会社は、私どもNTVPより5千万円以上の払い込みによって増資すなわち株券の発行を行いました。株券そのものは、私どもの事務所でご用意させていただきましたが、数千円でした。

さて、今月号で取り上げるキーワードは、「事業サイクル」です。事業サイクルを一通り頭に入れておかないと、会社とは何か、という事はわかりません。逆にこのことさえ頭に入れば、後は細かい議論です。まず、「事業サイクル」を理解しましょう。エンジニアの方ならば簡単にモデルが理解されるはずです。(下図参照)

事業のワンサイクル

図表

これだけで会社の事業活動のすべてです!

会社は毎年毎年継続して行きますから、設立以来皆さんのお勤めになっている会社は何回もサイクルをくぐり抜けているのが普通です。50周年という事は、決算を50回迎えている会社、といことでしょう。ここでは簡単のために、事業サイクルのワンサイクルを理解しましょう。それで十分です。具体的に事業サイクルがワンサイクル終わるまでを段階ごとに見ていきましょう。

第一段階:事業を計画する
まず何を事業として実現しようとしているか、計画を立てないといくらくらい事業資金が必要かわかりませんし、だいたい事業として損益(金の出し入れ)が成り立っているのかどうか分かりません。誰が中心となって実行するのかチームを作る必要がありますし、何をどうやって仕入れどう商品にまとめて、どんなお客さんをターゲットに売るのでしょうか?本当に予定した値段で、仕入れただけ売れるのでしょうか?と言う単純なことです。当然、ライバルもいるでしょうし、加工に技術がいるかもしれません。最終的に金の出入りもシミュレーションします。そのシナリオを文字で「事業計画(ビジネスプラン)」にまとめます。また、今はパソコンがあり、表計算ソフトがありますから、シミュレーションは楽です。

第二段階:会社の設立、株の発行による事業資金の準備
次に、事業計画を、仲間(発起人)に説明し、事業の仲間になってもらったり、有望だと思ってくれれば投資家として事業資金を投資してもらったりします。すなわち会社は株券を発行すればよいのですが、株券には保証人が要らず、また文房具屋で千円も出せば雛形が購入できることは勉強したとおりです。仮に自分が7百万円、投資家が3百万円、合わせて10百万円集めたとしましょう。会社の登記には、社名を考えたり、役員を選んだり、会社の基本ルール(定款と言います)を登記しなければなりません。だいたい一ヶ月もあればできます。

第三段階:営業所を準備する(場所・人・設備)
さらに、営業所を設置するために、事務所を借ります。簡単な作業であれば、自宅でも良いでしょう(かっこよく言えばSOHO)。あと人を雇います。最初はボランティア的に参加してくれる配偶者に手伝ってもらう手もあります。設備は、電話と机とモデム付きのパソコンがあれば、とりあえず何かできるでしょう。仮に1百万円使ったとしましょう。(事業資金残りは10-1=9百万円)

第四段階:仕入れ、加工をする
商品が何であるかによりますが、事業とは基本的に仕入れて加工して、付加価値をつけてお客様が満足を得られるようにしなければ事業としての価値がありません。秋葉原で部品を7百万円で仕入れて、簡単な組立配線と梱包を施したとしましょう。(事業資金残りは9−7=2百万円)

第五段階:販売活動を展開する
この商品に予定通り値段を付け、名前を付けて、販売をします。直接インターネットで販売したとしましょう。販売費に百万円かかったとしましょう。(事業資金残りは2−1=1百万円)商品は予定通り15百万円で全部売れたとしましょうか。(事業資金1+15=16百万円)

第六段階:決算報告し配当する(おしまい)
決算をするとき伝票をそれぞれ科目ごとに集計(元帳集計)し、足し算引き算をして決算書にまとめます。このとき決算に間違いがないかどうか調べることを「監査」と言います。そして、この場合は、一年で解散しますと、目出度く手元に16百万円の現金と事業を一年間行ったパソコンやら机やらが財産として残ることになりますので、株主である自分と、友人の投資家で山分け(配当)する事になります。

この事例を振り返る
10百万円の資本で始めた会社が一年後に16百万円になったのですから、投資家を喜ばせる事業を成功させたと言えます。今銀行に定期預金で預けても年間0.1%の利子にもなりませんが、何と60%の投資リターンだったと言えます。(実際には、税務署に対して営業の内容を申告し、利益に対しては税金が持って行かれることになります。)事業が成功し、投資家も投資が成功したと言うことです。

これで終わりです。「事業サイクル」とは、要するにこんな簡単なことです。あんまり専門用語に惑わされないで、この事業サイクルさえ頭に入れていれば、あとはその都度専門家と議論をしながら進めればよいのです。ここでもう一度最初に戻ると、千円の文房具屋の株券が数千万円になるというのは、ペテンでもバブルでもなく、まさに事業の成功を事業計画にかぎつけた投資家が、将来を見越して投資をした、という状況が理解できると思います。これが「自由市場主義の資本主義」そのものです。日本や欧米はまさにこの仕組みを原理として経済社会が運営されています。基本はこんな簡単なことなのです。会社がでかくなり、社歴も長くなると、勤めているサラリーマンはいったい会社とは何か、という根本がかえって分かりにくくなるものです。読者が勤め人なら、あなたの勤めている会社の決算報告書を一度そういう観点から見てみられることをお勧めします。(ただ、大会社の場合桁が大きすぎてこれまたわかりずらいでしょうが、原理は同じ。)

最後に、要するに「事業資金を出してくれる投資家は、あなたの計画する事業サイクルの説明を聞きたがっている」、ということです。当然あなたは、その事業の魅力を投資家に伝えなければならないでしょう。伝わったとき、文房具屋の千円しない株券雛形が、数千万円に化けるのです。これをバブルと言ったら、日本の商法そのものの存在を否定したことになります、ご留意下さい。

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)投資事業有限責任組合
ベンチャーキャピタリスト 村口和孝
※禁無断転載。全ての著作権は著者に属します。

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