Nippon Tecnology venture Partners
ホーム NTVPについて ポートフォリオ お知らせ ベンチャー・プライベート・カンファレンス ジュニア・ベンチャー・プログラム リンク お問い合わせ English
趣旨
スケジュール
プログラム実績
講演実績
記事紹介

青少年起業体験プログラム

プログラム実績

徳島県阿南市 「ジュニアベンチャープログラム」(ボランティア)

「SMILE 株式会社」班

事業概要
業 種 ビンゴ、マッサージ、駄菓子屋
構 成 中3女子3名、小3女子2名、小2女子1名
売 上 18,470円
経 費 11,783円
利 益 6,687円
現 金 18,687円
借入金 2,000円
資本金 10,000円
一人当り(2株)配当 1,000円
1.一人当り配当は、100円未満を切り捨てにしました。
2.「税金」として利益の10%を預かりました。
3.テントの「場所代」を別途徴収しました(金額は入札にて決定)。
※1〜3の合計金額は寄付金として社会福祉協議会に送金しました。

担当VC 野中 俊宏(徳島大学)さんのレポート

この手記は、小学3年生社長のもと、マッサージ・駄菓子販売・ビンゴゲームを行ったSMILE(株)のドタバタ劇をありのままに綴ったものである。

<8月27日 初顔合わせ>
イメージ午前中は所用があったため、会場に着いたのは午後2時過ぎだった。起業家たちは朝から集まって会社の作り方などを学んでいる。そしてこの時間は、自分たちの事業計画を練っているころだった。

私が担当するグループが作業をしている和室に案内される。少しドキドキしながらふすまを開ける。おっと、全員女性ではないか。中学生が3人、小学生が2人、そしてVC役の大学生が1人。自己紹介もそこそこにさっそく輪の中に入る。事業計画の発表に使う模造紙はまだ白紙の状態だった。発表の時間まであと15分しかなかったが、とりあえずは様子を伺おうと、話に耳を傾けることにする。

どうやら、まだ何の事業をするかでもめているらしい。候補に挙がっているのは、ビンゴ、駄菓子、ダーツなど。しかし「何をやるか」だけを考えており、そのためには何が必要か、予算はどうなるのかなどについてはまだ全く考えていない様子だった。中学生は机を囲んで、シャーペン片手に思案している。その横で、小学生がバタバタと走り回っている。リーダーシップをとる社員はいないのだろうか?そういえば、社長が誰なのかをまだ聞いていなかったぞ。

そんなことを考えていたときだった。さっきから落ち着きのなかった小学生を注意する中学生の声を聞いて、私は驚いた。「社長!」と呼んだのである。この子が社長!? 聞けば、小学3年生というではないか。なんでも、自ら進んで社長をやりたいと名乗り出たそうである。たいしたものだ。

大きな進展もなく、いよいよ残り時間が少なくなったので、事業計画をまとめるべく、私のほうから発言する。まず、ターゲットとする客層を尋ねると「子どもからお年寄りまで」との答え。「でも、この企画でお年寄りは来る?」と聞くと、一同「う〜ん」と考え込む。すると中学生の1人が「マッサージとか…」と提案。私は「おお!」思わず声をあげ、拍手を贈った。祭りのお店でマッサージ! 素晴らしく独創的なアイデアだ。社長が「私、マッサージ得意!」と賛同し、実際にVCにマッサージをしてみせる。すると、そのVCも「あ,うまい!気持ちいいよ」と感心。決まった。目玉はコレだ。

ダーツはほかで出店している可能性が高いということでボツにし、マッサージのほかにビンゴゲームと駄菓子販売をすることになる。しかし、この時点で発表5分前。とても間に合いそうにない。大慌てで予算の編成に入る。ところがまだ事業計画に気を取られており、すぐ違う方向に話がそれていってしまう。このままでは駄目だと思い「とりあえず発表ができるように、大雑把でもいいから値段を決めよう」ということで、適当に利益を算定する。マッサージの場合は、単価を決めれば売り上げも予想がつくが、駄菓子は仕入れ値がバラバラなので見当がつかない。そうこうするうちに、予定の時間。ダメだ間に合わない。そこへ救いの神が現れ「事業計画の発表を10分延期します」とのありがたいお言葉。急場しのぎの売上・経費・利益予想を書き上げる。

経費をざっと見積もったところ、8千円弱ですべて収まりそうだ。「宣伝用にチラシを作ろう」「チラシを持ってきた人は10円引きにするっていうのはどう?」ポンポンと新しいアイデアが飛び出してきて、しかもどれもが捨てがたい妙案ばかり。時間がもっとあれば…と思いながらも、「それは後で考えよう! とにかく今は計画書を作ろう!」と必死で軌道修正。あとで内訳を調整できるように、チラシのコピー代を多めにとり、経費を1万円とする。売り上げ予想は2万5千円。かなりアバウトなのは否めない。

少しでも時間を節約するため、項目ごとに分担して書いたのが功を奏し、10分弱でどうにか事業計画書が完成。不十分には違いないが、細かいことは質問を受けてから考え直そうということで一致した。

<事業計画の発表>
イメージ時間になり、発表が行われる大部屋に移動する。ほかのグループも最後までバタバタして計画書を仕上げたようだ。発表は希望するグループから順にということで、我が社はちょうど真ん中の4番目を選んだ。

次々と他の会社が事業計画を発表していく。大胆とも無謀ともとれる計画を立てている会社、自信満々で発表したものの突っ込まれまくる会社など、それぞれの特徴が現れていておもしろい。

そしていよいよSMILEの番が来た。出ていく少し前に、他のグループの発表を聞いて補足すべきだと思った点を、計画書には書いてないけど必ず言うように、と指示して送り出す。計画書に沿った説明は、ところどころ詰まりながらも一生懸命進めていく。しかし、マッサージやビンゴの値段に「高い!」の声があがったことで舞い上がってしまったのか、しゃべるように伝えたことをすっかり忘れてしまっている。質問タイムが始まり「ビンゴは一度にたくさんの人を集めないとできないが,時間や場所をどうやって告知するのか」「マッサージがそんな簡単にできるのか」など、多くの疑問が投げかけられた。ほとんどは想定の範囲内だったのだが、社員たちは完全に固まってしまい、十分な回答ができないまま強行突破で発表を終わらせようとしている。思わず頭を抱えそうになったとき、」VCから何かないかと振られたので、慌てて補足説明をする。「ビンゴについては、事前に詳細を書いたチラシを配ります。マッサージは、満足できるサービスが提供できるよう。十分に家で練習してきます。」…今考えれば、これが「VC依存症」のきっかけになってしまったのかもしれない。

<会社設立>
その後は、やや一方的な展開となった。定款の作成、登記簿の記入、株券の発行。特に問題なくこれらの作業をこなしていったが、時間が押していたこともあり、VCが「ここにこう書いて」と押し進める形になってしまったのだ。中学生の表情がつまらなさそうになったのを見て「いかん!」と気がつく。あくまでも主役は彼女たちなのだ。極力社員に任せて、どうしても気になる点は、脇から一言だけアドバイスを送るようにしようと心に決める。

書類を書き上げ小学生社長以下SMILE社員一同は登記所へ向かった。ほかに2社ほどが順番待ちをしていたので、先に登記所の隣にあるレンタル相談所で借りる物品の交渉に入る。社長を前に座らせるが、何か決断が必要なときは必ず後ろを向いて私の決裁を仰ぐ。「それで大丈夫か自分たちで考えてみて」と言うと、隣の中学生が「いけるんちゃうん」と一言。それが何度か繰り返され、長机とパイプ椅子、それに烏龍茶を入れておくジャーをレンタルするということで話がまとまった。

やがて登記所での順番待ちが終わったので、そちらに移動する。書類を揃えて提出。特に問題もなく、登記をクリア。資本金1万円の会社「SMIKE(株)」設立の瞬間である。幼き起業家たちが、安堵の表情を見せる。

事業資金を得たところで、もう一度計画全体を見直し、抜かりがないかを再チェック。すると、出るわ出るわ、次々と見落としが発覚していく。決めなければならないことは山ほどあったが、無情にも時間は流れていき「ビンゴの準備は社長に一任」「チラシの作成と駄菓子の仕入れは中学生が担当」「仕入れは本番の2日前」など、いくつかの議題を話し合っただけで解散となってしまった。

<準備期間>
会社設立から2週間が経った。準備の進み具合を把握するため、VCが手分けして社員に電話で連絡を取る。社長はやる気満々でビンゴの道具も揃え、社員のバッヂを作ったりもしていた。さすが自ら社長を名乗り出ただけあって積極的だ。一方の中学生は、夜遅くまで塾通いなどをしているらしく、なかなか連絡が取れない。やっと取れたかと思うと、あまり元気のない声。チラシはまだできておらず、社員の1人は事前に買い出しに行くことすら忘れてしまっていたようだ。不安が頭をよぎったが、まだ時間はある。他社のように、事前に準備するものが少ないので「当日までにしなければならないことを考えておいて」と伝え、もう少し様子を見てみることにする。

さらに1週間が経過。再び電話で様子を聞いた私は「後悔」という2文字が頭に浮かんだ。先週から、ほとんど何も進展していなかった。どうも「どうにかなる」と思っているフシがあり「仕入れはどうするの?」と聞いても「わからない」という答えが帰ってきたりするし、具体的な段取りなどを考えるのはこれからのようだし、こちらの焦りとは裏腹に至ってマイペース。もしこれが、前回VC主導で進めてしまったことが原因だとしたら・・・と考えると、居ても立ってもいられなくなってきて、何とか乗せようとアドバイスしたり質問したりするのだが、電話では十分に話ができず芳しい反応が得られない。本番が近づくにつれて、不安は増すばかりである。

当初の私の予定では、最終日は朝から別の約束があったため、販売活動には参加できないということになっていた。また,初日が途中からの参加だったため、運営の都合によっては、次回は別のグループを担当するかもしれないということであった。しかし、ここまできて「あとはがんばってね」などと言えるわけがない。「最後までSMILEを担当させてほしい」と直訴し、また24日の先約を土壇場でキャンセルして、この会社と心中するぐらいの気持ちで本番に臨むことにした。“した”というよりは、“そうせずにはいられなかった”のだ。

本番3日前になってようやく宣伝用のチラシは作り終わったこと、中学生のメンバーが集まって具体的な段取りを練ること、駄菓子の出張販売用の入れ物(駅弁スタイル)は前日に作る予定であることなどを確認した。もうジタバタしてもしょうがない。前日準備にすべてをかけるしかない。

<9月23日 1ヶ月ぶりの再会>
この日のプログラムは9時からということで、8時45分に会場到着。ほかの会社では、既に人が揃い始めている。ところが我が社の社員は、10分前になっても誰一人姿を見せない。がらんとしたテーブルの脇に寂しく腰掛ける。3分、5分と経つにつれ、座ってもいられなくなって、あたりをウロウロ。そして8時56分、ようやく一行が到着。波乱の一日を象徴するかのようなスタートだ。

前回のVCと入れ替わりで我が社を担当してくれる新しいVC、そして今日から参加する小学生と初めての顔合わせ。ほかの社員とは1ヶ月ぶりの再会となる。中学生たちは、予定通り前日に駄菓子を仕入れてきてくれたようだ。袋を覗き込んでみる。そこには何やらあやしげな(少なくとも私にはそう見えた)5種類ほどのお菓子の箱があった。これ、本当に売れるのだろうか・・・?

この日はまず、決算の事前学習をする。しかし、我が社の社員はおしゃべりをしてちっとも聞いていない。しばらくは放置しておいたが、たまりかねて話を聞くよう促す。が、しゃべるのはやめたもののやはり聞いていない。1人の中学生は、話の間中ずっと下を向いて、何やら懸命に書いている。何をやっているのかと思ってよく見てみると、できたと聞いていたチラシをなんと白紙の状態から書いているではないか! おいおい、大丈夫なのか・・・?

決算の説明の次は出店場所の入札である。ビンゴ・マッサージと場所をとるイベントが2つもある我が社としては、他の場所と比較して2倍のスペースがある一等地を、何としてもゲットする必要がある。他社の様子を偵察したうえで相談した結果、このスペースに2010円をつぎ込み、ほかの場所は0円で入札することにした。その結果、希望通り一等地を得ることに成功する。しかし、金額的にかなり無理をしたため、資金繰りは一気に悪化。午後に大慌てで銀行から融資を受ける羽目になる。経営状態を問わずお金を貸してくれる。素晴らしい銀行に感謝。

<事業準備スタート>
ほかの店は次々と買い出しやら準備やらに出掛けていくが、我が社はまだ計画の最終確認をしなければならない。社長は他社の動きをみて落ち着きがなくなり「私は買い物に行く!」と、何を買うかも決まってないのに何度となく出掛けようとする。そのせいで、なかなか話は進まない。前回の反省から、できるだけ子どもたちの意見を聞いて、無茶だったり無関係だったりする話からも、どこか良いところを見つけてうまく話を盛り上げていくように心掛けよう・・・。そんな風に考えてはいたのだが、いざ始まってみると、そんな余裕はまったくなかった。こちらも必死である。

昼前になり、ようやく準備する物品が出揃った。ここからは、買い出しと駄菓子の値付けの二手に分かれることにする。賑やかだった小学生3人が買い出しに行ってその場からいなくなると、中学生3人が大きな溜め息。社長の暴走ともいえる突っ走り方に、少々苛立ちを感じているようだ。このままでは、チームワークが危ない。何とかしなければ・・・。

やがて昼食の時間となる。しかし、我が社の買い出し部隊はついさっき出掛けたばかりで、当分は帰ってこない。値付けがあっさり終わったので、早く次の作業に移りたいのだが、買い出し部隊が帰ってこないことには、何もできない状態なのだ。段取りの悪さと空気の重たさに、やや自己嫌悪気味になる。買い出し部隊に電話するが、まだ帰ってきそうにない。じっとしていられないので、彼女らが行っている店へ1人で走る。行ったところで、何ができるというわけでもないのだが。

一行は買い物を済ませた後、店で段ボールをもらって帰ってくる途中だった。昼食の時間も残りわずかなので、段ボールを持ってみんなで走って帰る。部屋に戻ると、中学生は待ちくたびれた様子。大慌てで弁当をかき込む。食べながら買い出しの結果を尋ねると、ビンゴの景品などはまだ買っていないとのこと。駄菓子も少し足りないので、午後にもう一度買い出しへ行くことにする。

<午後の準備>

イメージ午前中は小学生たちが買い出しに行ったので、入れ替わりで今度は中学生が買い出しへ行き、小学生らは飾り付けに専念することになった。

駄菓子問屋は歩いていくには遠いということで、私が車を出す。ここで大きなハプニン。なんと、問屋が閉まっているではないか!開いていると聞いていたのに。しかし後でわかったことだが、ここで駄菓子を買っていれば、我が社は破産していた。閉まっててくれて良かった・・・。

駄菓子を買い足すのをあきらめ,ビンゴの景品を買うために100円ショップへ。ここでなぜか小学生グループに出会う。飾り付けに必要なものを買いにきたらしい。結局、みんなでビンゴの景品を探す。が、小学生たちは自分の欲しいものばかりを手にしている。そのうえ「ビンゴって私もしていいんでしょ?これは私がもらうからね!」・・・不要な買い物をやめさせるのに一苦労。

かなりの品物が集まったとき、小学生の1人が叫んだ。「これって、女の子のものばっかり!」そう、我が社の社員は全員が女の子。従って、自分が欲しいものを選べば必然的に女の子向けの品物ばかりになってしまうのだ。それにしても、よく気付いてくれたものだ。私もあまり考えていなかった。

このころから、マッサージを提案した中学生が、少しずつではあるが積極的に意見を言ってくれるようになる。これまでほとんどしゃべっていなかった子だけに、嬉しく、そして心強く感じる。

買い出しから帰ったあとは、全員飾り付けにかかりきりになった。看板を作ったり、駄菓子を移動販売するための入れ物を作ったりといったいわゆる「図画工作」は、小中学生の得意分野。何も言わなくても、どんどん形ができあがっていく。例の中学生が、小学生3人をうまくコントロールしてくれているようだ。

その間に採算ラインを計算する。駄菓子は最初に決めた値段で完売したとし、ビンゴは全員がチラシを持参したと仮定して売り上げを計算する。その結果、マッサージで25人以上のお客さんを呼べば、黒字となることが判明。時間と人手との兼ね合いから、目標人数を50人に決める。

チラシの原本がようやく完成したので,コピーに走る。帰ってくると飾り付けはほぼ完成していた。小学生の1人が、買ってきた肩たたき棒でマッサージの練習をする!と言い出す。これはいいことだ。いいサービスを提供するためには、練習は不可欠である。私の肩を叩いてもらう。・・・痛い。ツボにヒットすればなかなか気持ちいいのだが、半分以上は骨にヒットしている。これはやっぱり手でやらなきゃダメだ。

あっという間に事業準備終了の時間になった。全く計画通りには進まなかった、とりあえずの開店準備はできた。絶対に何か大事なことを忘れている気がするが、今日はエネルギーを使い果たしてしまった感じだ。チームワークは、少しずつだが確実に良くなってきている。後は明日、本番での彼女らの活躍に賭けよう。

<9月24日 いよいよ開業>
いよいよ販売当日。お天気が心配されたが、一同の願いが通じたのか見事な快晴。お膳立ては整った。残るは自分たちのがんばり次第。泣いても笑っても、あと半日で結果が出るのだ。

8時半集合だったのだが、これまでとは駐車場の場所が変わっているのをすっかり忘れていてもたつき2分ほど遅刻。すでに社員はみんな揃っており、準備のために会場のほうへ向かっていた。社長に、顔を見るなり「遅い!」とお叱りを受ける。

大急ぎで準備を整え、出店場所へ。早速、椅子のある場所がわからないというハプニング。椅子はマッサージのお客さんが座るという、我が社の大切な商売道具だけに見つからないでは済まされない。あちこち尋ねてまわっていると、朝一番のイベントにたくさんの椅子を使っているので、それが終わったら持っていって構わないとのこと。最初から冷や汗ものだ。

開店予定の9時を過ぎても全然店らしい体裁が整っていない。椅子はようやく準備できたが、まだ看板もなく、備品もバラバラである。雑多に机の上に置かれた荷物を整理しながら、マッサージのときにサービスで出す烏龍茶を沸かし始める。お茶を冷やす氷をコンビニで買うつもりだったのだが、朝は時間がなくて無理だった。近くのスーパーは10時にならないと開かない。そんな状態だというのに、社長がいきなり商売を始めてしまう。マッサージのお客さんを呼んできたのだ。しかも、途中で仕事をほっぽり出してどこかへ消えてしまった・・・。こんな調子じゃ、赤字も覚悟しておかねばなるまい。

10時3分前、近くのスーパーへダッシュ。開店と同時に冷凍食品コーナーへ行き、氷を2つ手に取ってレジへ急ぐ。領収書を書いてもらう間がもどかしい。再びダッシュで店へ戻り、沸かしたての烏龍茶に買ってきた氷をまず1袋入れる。氷はあっという間に全部溶けてしまった。試しに飲んでみるが、ぬるい。これでは駄目だと思い、全部入れて冷やす。どうにか“アイスウーロン”にはなった。しかし、このままではすぐにまたぬるくなってしまう。氷代だってバカにならない。ぬるくなるまでに氷を作っておこうと思い、調理室へ。まず,冷凍庫の中に氷がないかどうか確認。調理していた別の店のVCに聞いてみると、食べられない氷ならあるのだが・・・とのこと。やはり作るしかないかと思い製氷皿を探すが見あたらない。そこら中を探し回っていると、スタッフの方に「そんなすぐに氷は作れないよ。わずかな氷代を惜しんで、売り時を逃しては意味がない」とアドバイスを受け、足りなくなったら買い足すことにして店に戻る。

開店から1時間半、マッサージのお客さんはまだ数人。盲点だったのは、何人かで連れ立って歩いている人は、なかなか呼び止められないということ。1人が興味を示しても、もう1人が「行こう」と促して立ち去ってしまうのだ。1人で歩いている人を中心に声をかけることにする。

<少しずつ・・・>
イメージ呼び込みにも慣れてきて、ようやく少しずつお客さんも来てくれるようになった。マッサージをしていると駄菓子の出張販売部隊が帰ってくる。なかなか順調に売れているらしい。こちらは思ったよりも好調のようだ。また「駄菓子販売」と看板に書いているのに、店では売っていないのも変だろうということで店のほうでも販売を始める。

11時から第1回のビンゴゲームを予定しているので、11時前になるとその呼び込みを始める。小さな子どもたちにはなかなか魅力的なようで、あっという間に人垣ができた。先着30名の予定だった、予想以上の集まりなので33名にカードを売って、ゲームがスタートした。ビンゴの運営は小中学生に一任していた。昨日のうちに必要な役割を考えてはおいたが、誰が何をするというのは決めていなかった。うまくやっていけるだろうかと少々心配だったが、ゲームが進むにつれ、それが杞憂に過ぎないことを彼女たちは証明してくれた。特に話し合った様子もないのに、自然と役割を分担し、スムーズに進行していく。特にトラブルもなく第1回目のビンゴは終わった。これなら、私が口出しする余地はなさそうだ。3日間を通じて初めて、安心感を覚える。

マッサージのほうも、時間が経つにつれ活気づいてきた。地元出身の社長が、顔の広さを発揮して次々とお客さんを集めてくる。多いときには,一度に3人のお客さんが入ることもあった。

マッサージをやって良かったと思うのは、お客さんとゆっくり話をする時間があったことだ。ふつうの商品販売なら、品物を渡して代金を受け取るだけの接触である。その点マッサージであれば、肩を揉みながら5分間も話をする時間があるのだ。そしてその中で、ジュニアベンチャープログラムについての話をすることができたのが、非常にうれしかった。しかも、話をしたのが徳島の人だけでなく、ボランティアで全国から来ていた人だった。わずかではあるが、このプログラムの意義を全国に伝えることができたのではないかと思う。また、マッサージの店というアイデアに感心し「ぜひ地元の祭りでやってみたい」という人もいた。思わぬところで、思わぬ効果があるものだ。

お昼前、再び駄菓子部隊が帰ってくる。なんと、完売しているではないか!仕入れた量が少なかったこと、競合相手がいなかったことを差し引いても、上々の出来である。今となっては、売れ残るよりはマシと思い、儲けが少なくなるのを承知で、低めの価格設定をしてしまったことが悔やまれる。

しかし、いまさら悔いてもしょうがない。駄菓子屋まで買い出しに行く時間もないし、ここは気持ちを切り替えて、残り時間、ビンゴ開催中以外は全員をマッサージに割り当てることができるじゃないかと考え直す。

客足がやや鈍ったところで、烏龍茶を冷やす氷を買い足しに出掛ける。帰ってきてからざっと売り上げを計算してみると、損益分岐点をクリアしていることが判明。あとは売れただけ利益になるということを社員に伝え、士気を高める。

<最後の追い込み>
イメージ残り1時間。社長は本気になっている。声を張り上げ、呼び込みにも力が入る。突然「冷たい烏龍茶1杯20円!」と新しい商売を始めたので、また社長得意の暴走が始まったのかと思ったがマッサージ客にサービスで出す烏龍茶が余りそうなのを見て、機転を効かせたようだ。狙いは見事に的中し、その安さと質の良さ(買い足した氷のおかげでどこよりも冷たかった)で、次々と売れていく。額は知れているが、売れ残るのと比べれば大変な違いである。

ここまでで,マッサージのお客さんはのべ40人近くに達している。延長を頼むお客さんもいたほどで、なかなか好評を博していた。あと少しで目標達成。体力は限界に近づいていた。子どもたちはもちろん、VCも腕がパンパンに張っているのだ。マッサージをする体力については、さほど検証していなかった。そんなに疲れるものではないと考えていたのだが、お客さんは体格も年齢も異なる。恰幅のいい男性などの場合は、5分間が終わると肩で息をするほどの疲労だった。お客さんの体格に合わせてマッサージ役を選んでいたものの、それにも限界がある。中学生は後半完全にダウンしてしまったが、社長は自ら得意と公言しただけあって、最後まで奮闘していた。

ビンゴは2回目も3回目も、小中学生だけでやり遂げた。大きな問題もなく、予定していた売り上げを得ることができた。2回目までは、口出しはしなかったものの、気になって様子を見に行ったりもしたが、3回目はその必要もなかった。これで終わってしまうのが惜しいほどだ。

午後1時半。閉店予定の時間となった。しかし、駄菓子はとうに売り切れ、ビンゴのコーナーは既に撤収していたため、片付けにほとんど時間をかける必要がない。最後の追い込みとばかりに声を張り上げ、お客を集める。そして、烏龍茶の最後の1杯を社長が売り切ったところで、SMILE(株)の営業活動は終了した。

<売り上げの確認>
イメージ片付けを手際よく済ませた社員たちは、さっそく売り上げの計算に入った。小銭の計算に手間取り、4回も数え直したりしたが、収支の計算は比較的順調に進んだ。駄菓子は予想通り、ビンゴは予想を上回る利益を上げた。マッサージは、目標にはわずかに及ばなかった、後半は大健闘だった。結果、純利益は6687円。扱う金額が小さかったため大儲けとはいかなかったが、開店1時間後に赤字を覚悟していたことを考えると、見事な数字だった。

ただ、値段の設定はVCとして反省すべき点の1つだ。マッサージは適正価格だったと思うが、それ以外はもう少し高くても商売になったかもしれない。途中で値上げするという手もあったが、駄菓子は仕入れ量が少なく、早々と売れ切れてしまったし、ビンゴは配ったチラシに50円と明記してしまったため価格変更に踏み切れなかった。ビンゴであれだけたくさんの子どもたちが集まってくるとは予想外だったし、駄菓子があれほど売れるとは思わなかった。結局、子どものニーズは子どもが一番良くわかっているということなのか・・・。

<株主総会>
イメージ営業報告書の作成は非常にスムーズで、会計監査も一番乗りで済ませた。そしていよいよ、株主総会。次々と各社の収益が発表される。我が社の社長は、あがってしまったのかさっきまでの元気がなく、他の社員やVCのフォローを受けながらの発表となってしまったが、なんとか報告を終えることができた。

そして各社の収益比較。我が社は売上高、利益とも7社中7位だった。最下位なのは予想していたが、ここまでの経過を考えれば、十分に誇りうる収益だった。しかし社長には「ダントツで負けとる!」となじられ、冷たい目で見られてしまった。できることなら、なぜそのような結果になったのかを社員一同に考えさせ、その反省を踏まえて、もう1日営業活動をするチャンスを与えたかった。この子たちはまだまだ伸びるはずなのだ。

この日をもって、SMILE(株)は解散である。初めて顔を合わせてか、ここまで苦楽を共にした社員らともこれでお別れとなる。今回の起業体験を通して、彼女たちが会社の仕組みをどれだけ理解できたのかは、正直言ってわからない。しかし,この3日間での経験は、この先もずっと忘れることができない強烈なものとして、記憶に焼き付けられたに違いない。

<所感>
私自身にとっても、今回のプログラムは非常に有意義だった。社員がまるで自分を映す鏡のようにも見え、甘さや未熟さが浮き彫りにされるのを感じた。個性の固まりのような子どもたちを、同じ方向へ導いていくことの難しさも痛感した。しかし同時に、何かを作り上げていくことに対する喜びや楽しみを、再発見することもできた。予定をキャンセルしてでも最後まで参加した甲斐があったと思う。

最後に、数多くの発見や出会いがあったこのプログラムを企画してくださった方々、そしてこのプログラムに携わったすべての方々に心からお礼を言いたい。本当にありがとうございました。
各班のレポート
「ドリームギア 株式会社」班
「SMILE 株式会社」班
「スマイリー 株式会社」班
「サマーハッピー 株式会社」班
「海援隊 株式会社」班
「株式会社 ジューシー林」班
「株式会社 やきそば屋さん」班
ページトップに戻る
Copyright 2001-2005 NTVP. All rights reserved.